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「海外旅行における新型インフルエンザ対策セミナー「抄録」
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鳥インフルエンザと新型インフルエンザ大流行
田代 眞人 国立感染症研究所 ウイルス第3部部長 答えは「ある!」。 何時、どの様なウイルスにより、どの程度の流行が起こるかを予測することは困難であるが、H5N1型高病原性鳥インフルエンザウイルスに由来する新型インフルエンザの出現と大流行の可能性は非常に高くなっている。 ヒトのA型インフルエンザウイルスはすべて鳥インフルエンザウイルスに由来する。毎年流行しているインフルエンザウイルスは、鳥ウイルスに由来した過去の新型ウイルスの子孫である。ヒトの新型インフルエンザウイルスは、鳥のウイルスとヒトのウイルスがヒトやブタに同時に感染して遺伝子の交雑が起こったり、突然変異の蓄積によって直接ヒトへの伝播性を獲得して生じる。従って、鳥インフルエンザが鳥の間で拡がり続け、偶発的な人感染例が続く限り、新型インフルエンザが生じる可能性は増え続ける。 過去の新型インフルエンザはすべて鳥の弱毒型ウイルスに起源があった。弱毒型ウイルスはヒトに感染しても、呼吸器に限局した通常のインフルエンザや、重症でも肺炎程度の病原性である。これに対し、東アジアを中心に大流行しているH5N1型高病原性鳥インフルエンザでは、ニワトリに加えて、カモ、アヒルなどの水禽類、野鳥、トラ、ネコ、ネズミなど多くの哺乳類にも致死性の全身感染を起こす超強毒型である。これが、野鳥によって、東南アジア、中国からシベリア、トルコ、バルカン半島にまで伝播されており、これまで2億万羽を越える鳥が殺処分されたが、依然制圧は困難を極めている。 1月初旬までに160人以上のヒト感染患者が出ているが、患者の多くは小児・若年成人で、重症肺炎、腸管感染を起こし、更に生体反応であるサイトカイン産生の異常応答が引き起こされて多臓器不全となり、致死率は50%を越える。ウイルス血症、糞便へのウイルス排泄も確認されており、呼吸器に留まらず、ヒトでも全身感染を起こす可能性がある。もはや「インフルエンザ」の概念を越える新しい重症疾患である。 現時点では、ウイルスは依然鳥型であり、ヒトからヒトへの伝播能力は獲得していないが、新型インフルエンザとして大流行すれば、想像を絶する健康被害と社会機能崩壊の非常事態も予想される。しかも、現在の強毒型鳥ウイルスがヒトの新型ウイルスに変身した際には、強い病原性も引き継がれる可能性が高い。まさに最悪のシナリオである。 特に1月以後、短期間に多数の家族内集積例が起こったトルコの状況は、新型インフルエンザの出現を強く懸念させる。ウイルスのレセプター結合部位がヒト型に変化し、RNAポリメラーゼがヒト体温でより良く機能するような変化も起こっている。一方、トルコ、中国、インドネシアのウイルスはベトナム、タイのウイルスとは抗原的に区別され、現在開発中のワクチンの効果減少も懸念される。トリとの接触歴も無く、呼吸器症状を欠く脳炎例や不顕性感染もあり、症例定義は容易ではない。更に、潜伏期、ウイルス排泄期間は2週間にも及び、迅速ウイルス診断キットでの検出率は低く、感染者の特定や診断検査など、サーベイランスや患者管理も難しくなっている。 H5型鳥インフルエンザでは最悪のシナリオが現実味を増しつつあり、地球レベルでの緊急対策が必要である。WHOをはじめ各国でも新型インフルエンザを健康危機管理の最優先課題の一つとして準備を進めている。我が国でも厚生労働省を中心とした省庁横断的体制で、大流行への事前準備の実施と、大流行の際の緊急対応計画の策定が進められているが、個人レベル、家庭レベル、職場レベルでの準備計画と実施も必要である。 |