| 海外渡航者に対する麻疹対策ガイドライン 2008年4月1日 日本渡航医学会 麻疹(はしか)は極めて感染力が強く、肺炎や脳炎を合併する重症感染症です。アメリカ大陸、西ヨーロッパや韓国などの国々では、2回のワクチン接種の推進により、自国内での麻疹発生数をほぼゼロにまで減少させることに成功しています。一方、多くの発展途上国では未だに麻疹の流行が続いており、患者と死亡者が発生しています。こうした国の一つに日本も含まれており、日本国内で感染した渡航者が海外で麻疹を発症した事例が相次いために、日本は麻疹の輸出国と非難されています。日本政府はこの問題を深刻に捉え、2012年麻疹根絶を目標に、種々の対策を講ずることを決定しました。しかし、当面は国内での流行は起こる可能性が高いため、麻疹に免疫のない方々は、海外渡航に際しては十分な対策を講ずるように注意喚起がなされています。 日本渡航医学会は、日本人渡航者の海外での麻疹発生とそれに伴うトラブルを避けるために、麻疹対策のガイドラインを作成いたしました。 要旨 渡航者の対応 ・渡航前に麻疹に対する免疫の確認してください。 ・免疫のない方は、ワクチンの接種を受けましょう。 ・麻疹に対する免疫を証明する英文の証明証を持参しましょう。 ・渡航中に麻疹を疑う症状がみられたら、直ぐに医療機関を受診しましょう。 学校・企業等の対応 ・渡航を予定している先生・生徒や社員の方々に下記の対策を推奨してください。 ・麻疹に対する免疫の確認。 ・免疫のない場合のワクチン接種。 ・免疫を証明する英文の証明書の持参。 医師の対応 ・渡航予定者、特に30歳未満の方々に対して、既往歴、ワクチン接種歴、抗体検査等により麻疹に対する免疫の有無を確認してください。 ・免疫が無い場合、ワクチン接種不適当者でないことをご確認の上、麻疹ワクチン接種を勧めてください。 ・免疫が獲得されていることが確認されたら、英文の証明書を発行してください。 各論 基本方針 1.麻疹対策が必要な渡航者 麻疹対策は全ての渡航者に必要です。麻疹発生数のピークは、1才前後の乳幼児と20歳前後の若者にあることから、特に30才未満の渡航者は必須です。 2.基本的対応 対応の基本は、麻疹に対する免疫の確認、免疫が無い場合のワクチン接種、免疫を証明する英文証明書の渡航中の携帯です。 麻疹好発年齢の30才未満の方は、たとえ麻疹ワクチンの接種を受けていても、1回接種だけでは免疫が低下している可能性があるため、渡航前にワクチンの接種をトータルで2回(過去の接種を含む)受けておくことが推奨されています。ただし、血液中の抗体を測定し麻疹に対する免疫が確認されれば、接種の必要はありません。 渡航者の対応 1.麻疹に対する免疫を確認しましょう まず、麻疹に免疫があるかどうかを調べましょう。以下の方法で確認することができます。 1)過去に麻疹の罹患 過去に麻疹に罹患したことがある方は、受診した医療機関に確認しましょう。確認できない場合は、新たに抗体検査を受けましょう。 2)過去に麻疹のワクチン接種 日本では、麻疹ワクチンの任意接種は1966年から、定期接種は1978年から開始されました。ご自分の母子手帳でワクチン接種の有無を確認してください。ワクチンを1回しか接種されていない方は、麻疹に対して免疫が無いと判断される可能性があるため、抗体検査を受けるか、ワクチンを過去の接種も含めて2回接種を受けるようにしましょう。 3)血液中の麻疹抗体測定 血液中の抗体があるレベル以上であれば免疫があること(抗体陽性)の証拠になります。抗体検査は、小児科・内科の診療所やトラベルクリニックで受けることができます。 2.免疫のない方はワクチン接種を受けましょう 免疫がないことが判明した方は麻疹ワクチンの接種を受けてください。過去のワクチン接種を含め計2回の接種が必要です。ワクチンの接種は、小児科や内科の診療所、トラベルクリニックで受けることができます。麻疹ワクチンは、不足することが多いため、事前に確認をしてください。また、ワクチンを選択する際は、風疹に対する免疫も確実にするために、麻疹と風疹の混合ワクチン(MRワクチン)の接種するようにしてください。 麻疹ワクチンは接種を受けてから1週間前後で、発熱や発疹などの副反応のみられることがあります。1回接種を受ける場合は、渡航の1週間以上前に受けてください。また、ワクチン未接種の方で2回接種を受ける場合は、27日以上間隔をあけて2回接種を受ける必要がありますので、渡航1カ月以上前に接種を開始してください。 麻疹ワクチンや風疹ワクチンは、ともに生ワクチンですので、妊娠の可能性のある方は接種を控え、接種後2ヶ月間は妊娠を避けるようにしてください。なお、抗体陽性者が麻疹、風疹ワクチンの接種を受けても、問題はありません。 3.麻疹の免疫を証明する英文証明書を携帯しましょう 麻疹に対する免疫を証明できない場合、航空機搭乗等の制限を受ける可能性があります。その結果生じた費用は、通常の海外旅行保険ではカバーされません。したがって、海外渡航の際には、麻疹に免疫のあることを記載した英文の抗体証明書、麻疹ワクチンの接種を記載した英文の接種証明書のいずれかを持参してください。英文の証明書は、ワクチン接種や抗体検査を受けた医療施設やトラベルクリニックで発行してもらいましょう。 4.渡航中に麻疹を疑う症状みられたら、速やかに医療機関を受診しましょう 渡航中に麻疹を疑う症状(発熱、発疹等など)が出た場合は、速やかに現地の医療機関を受診してください。この時は必ずマスクをつけて受診しましょう。麻疹排除国において麻疹を発症した場合は、免疫のない住民に急速に感染を広める危険があるばかりではなく、集団発生調査、症例調査、接触者調査により滞在先や取引先に多大な迷惑をかけることが予想されます。 また、航空機内で同様の症状が出現した場合も、速やかに客室乗務員へ報告し、乗務員の指示に従って下さい。 学校や企業の対応 1.海外で麻疹を発症した場合の影響 2007年春、関東地方を中心に麻疹が流行しました。高校から大学生の間にもっとも多く発生し、この時、カナダを修学旅行中だった日本人高校生が麻疹を発病し、発病者だけでなく引率者を含む参加者が現地に留めおかれる事態となりました。抗体陰性者には、ガンマグロブリンが接種されています。麻疹排除国ないしそれに近い国で、麻疹を発症した場合は、今後もこのような厳しい対応がとられる可能性があるため、渡航者自身の問題だけにとどまらず、滞在先や取引先の方々に多大な迷惑をかけることが予想されます。日本からの麻疹輸入例の発生は、たとえ1例であっても、「国際的な公衆衛生上のリスク(International Public Health Risk)」として、損害賠償を請求されるなど国際問題に発展しかねない状況にあります。 また、麻疹の免疫があるものの、それを証明できない場合、行動制限などのトラブルに巻き込まれる可能性があります。 一方、麻疹流行国に渡航した場合は、麻疹に免疫のない渡航者は、渡航先で麻疹に罹患する危険があります。 2.事前の対策 学校の生徒、職員、企業の社員が海外に渡航する予定のある場合は、事前に渡航予定者(特に30歳未満)に対して、麻疹に対する免疫の有無の確認を推奨してください。さらに、免疫が確認された渡航者に対しては英文の抗体証明書の携帯、免疫のない渡航者に対してはワクチン接種(1回 あるいは2回)と英文の接種証明書の携帯を推奨してください。 医師の対応 1.麻疹に対する免疫の確認 渡航予定の患者さんより相談があった場合、既往歴、ワクチン接種歴、抗体検査等により麻疹に対する免疫の確認を行ってください。抗体測定方法にはEIA法、PA法、HI法とNT法(中和法)があります。本邦ではEIA法とHI法が一般的に使用されていますが、HI 法は、EIA 法、PA 法より感度が低いために、免疫の有無を検査する目的にはあまり適していません。 2.ワクチンの接種 免疫が認められず、ワクチンの接種を希望している場合は、ワクチン接種不適当者でないことを確認の上、接種してください。麻疹ワクチンを2回接種する場合は、27日以上あけてください。ご本人の承諾があれば、風疹の予防も確実にするために、MRワクチンを選択してください。なお、ワクチンの接種回数は基本方針をご参照ください。 3.英文証明書の発行 ・麻疹の免疫を証明するために、以下の英文証明書を発行してください。 ・既往がある場合:診断を受けた日時と医師のサイン。 ・ワクチン接種証明書:ワクチン接種をした場合は、接種を受けた日時と医師のサインを記載してください。 抗体証明書:抗体が陽性であった場合は、検査日時、検査方法、抗体価と医師のサインを記載してください。 具体的な証明書の記載例は、母子衛生協会のホームページをご参考にしてください。 参考)母子衛生研究会 英文診断書・予防接種証明書作成の手引き http://www.mcfh.net/yobou.htm おわりに 今年から日本は、2012年麻疹排除に向けて、麻疹を全数把握疾患に変更し、疫学調査を含めた積極的な対策を実施しています。本ガイドラインは、海外渡航だけに特化したものですが、今後は国内においても同様に、免疫の有無の確認後にワクチンの接種や免疫証明書を携帯することをご検討ください。 関連ホームページ 1.麻疹に関する情報 国立感染症研究所感染症情報センターホームページ 麻疹排除の目指す国内外の状況 麻しん対策ブロック会議資料 医療機関での麻疹対応ガイドライン(第二版) 保育所・幼稚園・学校等における麻しん対応カ_イト_ライン 第二版 都道府県における麻しん対策会議のガイドライン(案) など http://idsc.nih.go.jp/disease/measles/index.html 2.外務省からの注意喚起 外務省海外安全ホームページ 日本における麻疹(はしか)の流行について(2008年3月) http://www.pubanzen.mofa.go.jp/info/info.asp?num=2008C087 3.トラベルクリニック情報 日本渡航医学会トラベルクリニックリスト http://www.travelmed.gr.jp/ FORTH予防接種機関データベース http://www.forth.go.jp/cgi-bin/promed/search_vaccine.cgi |